大容量のハードディスクが登場してきて、プールの構築には少し注意が必要になってきたと思います。
容量単価のスイートスポットの壁からレシルバー時間の壁へ
2024年11月の時点では、家庭やSOHO向けNASにおけるハードディスクの主流は、まだ 4TBあたりが中心でした。
価格と容量のバランスが良く、レシルバー時間も現実的で、「とりあえず無難」な選択肢として多くの構成で使われていた時期です。
しかし、2026年1月現在では状況が少し変わってきました。
ディスク価格の変動と流通量の変化により、8TBクラスが“無理のない標準容量”として見える位置まで下りてきています。
一方で、10TB超の大容量ディスクも以前より身近にはなりましたが、それらは「誰にとっても最適」な存在になったわけではありません。
従来は特定の容量のところにスイートスポットがありましたが、 Barracuda の 24TB などの登場で容量あたり単価が逆転しているケースが発生しています。
容量の主流が 8TBあたりへとシフトしたことと、さらに大容量のハードディスクの存在が、
「ディスクを大きくするべきか、それとも構成や台数を見直すべきか」
という設計上の考慮点が増えてきてしまっている、と言えるでしょう。
RAIDZ1時代の終焉と、これからの選択肢
このような背景を受けて、まず強調しておかなければならないのは、「RAIDZ1(パリティ1本)構成で安全が担保できていたのは、HDD容量が2TB程度だった時代まで」という事実です。
かつてはコストパフォーマンスの良さから選ばれていたRAIDZ1ですが、8TBを超えるような現代のドライブ容量では推奨できません。理由はシンプルで、「レシルバー(再構築)時間」の問題です。 大容量ディスクが故障して交換した際、データの再構築には長時間、あるいは数日を要します。RAIDZ1では、この高負荷な作業中に「残りのディスクのうち、たった1台でも」読み取りエラーを起こせば、プールのどこかのデータが欠落し永久に失われるか、場所が悪いかもう1台ドロップしてしまえばプールが崩壊(全データ消失)してしまいます。2026年の大容量ドライブにおいて、このリスクは無視できないレベルに達しています。
あくまで参考ですが、
3台構成のRAIDZで、1台をレシルバーする時間は、使用容量が70%として
1TBx3 1.8時間
2TBx3 3.5時間
4TBx3 7.1時間
8TBx3 14.1時間※
(8TBx2のミラーは 10.4時間の計算)
フルパフォーマンスでレシルバーは進まないと仮定して多少数字を丸めていますが、使われているプールだとしたら、更に1.5~2倍くらいかかってもおかしくないでしょう。
ここで、8TBの12時間越えが目立ちます。
「RAIDZがデグレードした状態でもう1本のエラーが許されないレシルバーの完了を待って眠れない夜を過ごしてもまだ終わっていない」
そういうことです。
そのため、これからのTrueNAS構成は「ミラー(Mirror)を複数束ねる」か、「RAIDZ2(パリティ2本)」のいずれかが中心となります。
なお、データの保全性にもっとコストをかけるならばRAIDZ3(パリティ3本)という選択肢もありますが、家庭やSOHOレベルではオーバープロテクション(過剰投資)になりがちですし、他のデータ保全方法も組み合わせる話になるので、ここでは選択肢から外します。また、TrueNAS SCALEで実装されている分散RAID技術「dRAID」についても、メリットが出るのはディスク数が10数台~という規模になるため、6台までの構成を検討する本稿では除外します。
超大容量ディスク(20TB超など)は、魅力的な容量単価になってきているものの、前述のレシルバー時間のリスクがさらに増大するため運用難易度が上がります。現状としては、コストと安全性のバランスが取れた8TBクラスのハードディスクを基本の軸として構成を考えるのが正解です。
搭載本数別:推奨構成パターン
では、具体的にディスク本数に応じた最適な構成を見ていきましょう。奇数本数(3本、5本)でのRAIDZ構成は、容量効率やアライメント、将来の拡張性の観点から推奨しません。「偶数本数」で組むのが基本です。
1. ディスク2台の場合:【ミラー(Mirror)一択】
選択の余地はありません。2台のディスクに同じデータを書き込むミラー構成にします。容量効率は50%メリット: シンプルで堅牢。1台が故障してもデータは守られます。
読み込み性能: 2台から読み出すため高速です。
レシルバーも残った方から読み取って書き込むだけなので高速です。
2. ディスク4台の場合:【RAIDZ2】または【ミラー x2】
ここが構成の分かれ道です。どちらも容量効率は同じなので若干の耐障害性かパフォーマンスか。RAIDZ2 (推奨): 4台のうち2台分の容量をパリティに使います。容量効率は50%
最大のメリット: 「どの2台が同時に壊れてもデータが残る」という圧倒的な安全性です。リビルド中の二次故障にも耐えられます。
ミラー x2 (ストライピング): 2台のミラーを2セット束ねます。容量効率は50%
メリット: RAIDZ2よりも書き込み等のパフォーマンスに優れ、レシルバーも高速です。
注意点: 「同じペアの2台」が同時に壊れるとデータロストします。安全性ではRAIDZ2に劣ります。
ハードディスク4台の時は以前はRAIDZ(RAIDZ1)容量効率75%という選択肢を考えたものですが、現在は避けるべきです。
3. ディスク6台の場合:【RAIDZ2】または【ミラー x3】
6台まで搭載できる場合、容量効率とパフォーマンスで性格が分かれます。
RAIDZ2 (容量重視): 6台のうち2台分をパリティに使います。容量効率は66%
メリット: 4台構成の時よりも容量効率が良く(66%利用可能)、かつ2台故障まで耐えられます。動画倉庫など、大容量データを保存するならこれがベストです。
ミラー x3 (パフォーマンス・拡張性重視): 3つのミラーペアを束ねます。容量効率は50%
メリット: IOPS(1秒あたりの読み書き回数)が稼げるため、ランダムアクセスに強くなります。
「拡張性」と「パフォーマンス」へのアプローチ
もし、最初からディスクを全数揃えるのが予算的に厳しい場合、「ミラー構成」での運用には大きなメリットがあります。 RAIDZ2などのパリティ構成は、後からディスクを1本ずつ追加して容量を増やすのが(機能としては存在しても)処理時間の面で大変です。一方、ミラー構成であれば、「最初は2台(ミラー)でスタートし、お金が貯まったら2台追加してプールに組み込む(ミラーx2)」という段階的な容量拡張が非常にスムーズに行えます。
ディスクを交換して容量を増加させる場合も交換に必要な台数が複数のミラーの構成なら1セット分の2台を交換することで容量を増やすこともできます。
最後にパフォーマンスについてです。 もし、データベースや仮想マシン(VM)、あるいは多数のコンテナを動かすなど、ストレージの応答速度(レイテンシ)やIOPSが重要になる用途であれば、HDDの構成に悩むよりも「SSDだけのプール(Solid State Pool)」を別途作成することを検討してください。 TrueNAS 25.10.1では、アプリ用の領域とデータ保存用の領域を物理的に分けるのが、快適な運用の近道です。
データの「保管庫」としてのHDD構成は8TB × RAIDZ2/ミラーで堅実に守り、足回りの速さはSSDに任せる。これが2026年時点での、最も賢いTrueNASの歩き方と言えるでしょう。
NAS用ハードディスクの容量単価のスイートスポット
CMR のハードディスクのAmazon価格(TB単価)
(2026年1月7日現在、Amazonまたはおすすめ出品のあるもののみ)
| 容量 | Ironwolf | Ironwolf Pro | Red Plus | Red Pro | Barracuda (CMR) | Blue |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1TB | — | — | — | — | 8,999円/TB | 6,880円/TB |
| 4TB | 5,245円/TB | — | — | — | — | — |
| 8TB | 4,435円/TB | — | 5,315円/TB | — | — | 4,175円/TB |
| 12TB | 4,460円/TB | — | 4,864円/TB | — | — | 4,804円/TB |
| 16TB | — | 4,686円/TB | — | 4,877円/TB | — | — |
| 20TB | — | 4,549円/TB | — | 4,650円/TB | — | — |
| 24TB | — | 4,583円/TB | — | 5,255円/TB | 3,278円/TB | — |
2TBが市場から消失し、8TBが主流となっていること、上位グレードのラインナップに超大容量のものがあります。
また、
Barracuda や WD Blue には、CMRモデルが含まれているので型番でよく注意して、メーカーの保証期間が短いことを納得の上であれば、使用する方法もあります。
価格差があるので交換することになったらそのときはそのときと割り切る。
さらに容量が欲しいとき
さらに容量が欲しくなったとき、今回の構成で使用しているハードディスクを、
より大容量のものへ交換するべきかどうかは、少し立ち止まって考えてみてもよいと思います。
実際には、保存しているデータのすべてを日々読み書きしているケースはそれほど多くありません。
多くの場合、頻繁に利用する「ホットデータ」と、
失っては困るものの普段はほとんど触らない「コールドデータ」が混在しているはずです。
もし、作業や共有で常に使うデータと、保管が主目的のデータを明確に分けられるのであれば、
ハードディスクを単純に大容量化するよりも、
複数の TrueNAS に役割を分散させるという選択肢の方が合理的な場合があります。
SATA という転送方式で回転ディスクに記録している以上、
1 台にすべてを集約するよりも、
用途ごとに筐体やプールを分けた方が、
性能面・運用面の両方で扱いやすくなることも少なくありません。
なお、この状況を一気に変えてしまうような決定的な技術的ブレイクスルーは、
少なくとも現時点では見えていない、という点も押さえておきたいところです。
回転ディスクを SATA で扱う以上、
容量の増加がそのまま扱いやすさにつながるとは限らず、
しばらくは「どう分けるか」「どう守るか」を考える時代が続きそうです。
単一故障点となり得る「ハードディスク1台」という単位そのものや、
その1台に対する転送速度によって制約されるレシルバー時間の壁が塗り替えられない限り、
本稿で整理してきた考え方も、当面は大きく変わることはないでしょう。
そうした前提が変わったときにこそ、
この考察もまた、次の世代へ進むことになるのだと思います。